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名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)3106号 判決

原告

畠中長信

ほか三名

被告

小柳国男

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告畠中長信に対し金一一五万六八〇二円、原告畠中ハマに対し金三四三万九五九一円、原告畠中信吾に対し金一一五万〇八一七円、原告畠中健吾に対し金一一三万一七一三円及び右各金員に対する昭和六一年一〇月五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して、原告畠中長信に対し金三三八万四八七一円、原告畠中ハマに対し金九三一万九五五八円、原告畠中信吾に対し金三二一万七三一三円、原告畠中健吾に対し金三一九万〇九五三円及び右各金員に対する昭和六一年一〇月五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和六一年一月二〇日午後一時四〇分ころ、佐賀市嘉瀬町大字萩野三四五―四辰美屋食堂前路上において、被告小柳早苗(以下「被告早苗」という。)運転の自家用普通自動車(以下「被告車」という。)が東向きで停車中、被告早苗が突然被告車の右前部ドアを開けたため、後方から進行してきた訴外畠中正信(以下「亡正信」という。)運転の原動機付自転車(以下「原告車」という。)が右ドアに激突し、同人は、路上に横転の際頭部を強打し、同月二四日脳挫傷のため死亡した。

2  責任原因

(一) 被告小柳国男(以下「被告国男」という。)

被告国男は、被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償責任を負う。

(二) 被告早苗

被告早苗は、本件事故当時後方の安全を確認せずに急に被告車の右前部ドアを開けた過失によつて本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 治療費 二〇万六一八〇円

亡正信は、死亡までの四日間に右治療費を要した。

(二) 付添看護料 二万円

一日当たり五〇〇〇円、四日分合計二万円を要した。

(三) 休業損害 四万円

亡正信は、生前クリーニング業(洗張等)を営んでいたが、本件事故のため、一日あたり一万円、死亡までの四日分合計四万円の休業損害を被つた。

(四) 葬儀費用 一一五万五〇三六円

(五) 追善供養費 一二万円

亡正信の初七日、四十九日及び百日忌の読経料として右金額を要した。

(六) 墓石代 三〇万円

原告らの支出した一〇〇万円の内金三〇万円

(七) 逸失利益 一二八三万円

亡正信は、死亡当時七四歳であり、クリーニング業(洗張等)を営み、少なくとも月四〇万円の収入を得ていたから、右金額を基礎とし、生活費を二五パーセント控除し、新ホフマン式計算法により中間利息を控除して就労可能な四年間の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり一二八三万円(一万円未満切捨て)となる。

4,800,000×(1-0.25)×3.564=12,830,400

(八) 慰謝料 二〇〇〇万円

(九) 諸雑費 三〇万円

原告らが亡正信の受傷及び死亡に際し連絡を取り合つた電話代三万〇二六〇円、死亡診断書等文書料一三〇〇円、その他諸雑費は合計三〇万円を下らない。

(一〇) 損害のてん補 一六四九万〇九〇〇円

原告らは、本件事故に関し、自動車損害賠償責任保険から右金額の支払を受けた。

(一一) 交通費 五五万二九七八円

原告らは、亡正信の受傷及び死亡に際し、それぞれの居住地からの往復の運賃等の交通費を支出したが、その額は、原告畠中長信(以下「原告長信」という。)が三〇万四八一八円、原告畠中信吾(以下「原告信吾」という。)が一三万七二六〇円、原告畠中健吾(以下「原告健吾」という。)が一一万〇九〇〇円である。

(一二) 引越費用 七万九四〇〇円

原告畠中ハマ(以下「原告ハマ」という。)は、夫である亡正信の死亡により一人暮らしとなつたが、持病があるため二男の原告信吾のところへ移住を余儀なくされ、引越費用として右金額を要した。

4  相続等

(一) 原告ハマ、同長信、同信吾、同健吾は、それぞれ亡正信の妻、長男、二男、三男であり、その法定相続分は、原告ハマが二分の一、その余の各原告が六分の一である。

(二) 前項(一)ないし(九)の合計額から(一〇)の金額を控除すると一八四八万〇三一六円となるところ、右各相続分に従い分割した金額に、前項(二)、(三)の固有の損害額を加算すると、原告長信が三三八万四八七一円、同ハマが九三一万九五五八円、同信吾が三二一万七三一三円、同健吾が三一九万〇九五三円となる。

よつて、被告らに対し、原告長信は三三八万四八七一円、同ハマは九三一万九五五八円、同信吾は三二一万七三一三円、同健吾は三一九万〇九五三円及び右各金員に対する本件事故後である昭和六一年一〇月五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3及び4は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

亡正信は、本件事故当時ヘルメツトを着用しないで原告車を運転していたものであり、亡正信の死因が脳挫傷であることに照らせば、亡正信の死亡による損害の四割を過失相殺として減額すべきである。

2  弁済

被告らは、原告らに対し、香典名下に一〇万円を支払つているから、これを損害額から控除すべきである。

仮に右が認められないとしても、右事実は慰謝料の算定に斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び2(責任原因)の各事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因3(損害)について判断する。

1  治療費

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三三号証及び原告長信本人尋問の結果によれば、亡正信は、本件事故により脳挫傷の傷害を負い、死亡までの四日間に治療費として二〇万六一八〇円を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  付添看護料

原告長信本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡正信は、本件事故により脳挫傷の重傷を負い付添看護を要したこと、亡正信の三男である原告健吾ら家族が交替で四日間付添つたこと、右付添看護料として一日あたり五〇〇〇円、四日分合計二万円を要したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  休業損害

原告らは、亡正信は一日あたり一万円の収入を得ていた旨主張する。

しかしながら、甲第二三号証の一ないし一九(亡正信の預金状況を証する書面)、第二四号証の一ないし九(亡正信の株式売買状況を証する書面)等原告らが本訴において提出する証拠によつても、一日一万円の収入があつた事実を推認することはできないし、原告長信本人の供述のみでは、これを認めるに足りない。

もつとも、成立に争いのない甲第一八号証ないし第二二号証、第三八号証の一ないし四七、原告長信本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、亡正信は、本件事故当時七四歳であり、妻である原告ハマと二人暮らしであつたこと、亡正信は、クリーニング業(洗張等)を営み、少なくとも当該年齢男子の平均賃金(昭和六〇年度賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計六五歳以上男子の平均賃金)である二九五万〇一〇〇円程度の年収(一日あたり八〇八二円)を得ていたことが認められるので、右金額を基礎として、死亡に至るまでの四日間の休業損害を算定すると、次の計算式のとおり三万二三二八円となる。

8,082×4=32,328

4  葬儀費等

原告長信本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二八号証の一ないし二六及び同尋問の結果によれば、原告らは、亡正信の葬儀費として、一一五万五〇三六円を支出したことが認められるが、弁論の全趣旨によれば、右金員のうち九〇万円を本件事故と相当因果関係ある損害と認めることができ、これを超える葬儀費及び追善供養費については相当因果関係ある損害と認めることはできない。

なお、原告長信本人尋問の結果によれば、亡正信の墓碑は未だ建立されておらず、費用の支出もしていないことが認められるので、原告ら主張の墓石代を損害と認めることはできない。

5  逸失利益

原告らは、亡正信は、少なくとも月四〇万円の収入を得ていた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠がないことは前判示のとおりである。

そして、前記のとおり、亡正信が七四歳であり、妻ハマと二人暮らしであつたこと、クリーニング業(洗張等)を営み、二九五万〇一〇〇円程度の年収を得ていたことに照らすと、亡正信は、本件事故がなければ四年間就労可能であり、生活費割合は三五パーセントが相当と認められるので、亡正信の逸失利益は、次の計算式のとおり六八三万四二〇一円となる。

2,950,100×(1-0.35)×3.564=6,834,201

6  慰謝料

本件事故態様、亡正信の負つた傷害及び死亡に至る経過、亡正信の年齢及び家族構成等諸般の事情を考慮すると、亡正信が本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰謝料は、一八〇〇万円が相当と認める。

7  諸雑費

成立に争いのない甲第三七号証、原告長信本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三一号証の一ないし四、前掲甲第三三号証及び同尋問結果によれば、原告らは、本件事故による諸雑費として、電話代三万〇二六〇円、死亡診断書等文書料一三〇〇円、入院雑費四〇〇〇円(一日あたり一〇〇〇円)、以上合計三万五五六〇円を要したことが認められる。

なお、原告らは、合計三〇万円の諸雑費を要した旨主張するが、右認定金額を超える部分については、支出の根拠も明確ではなく、本件事故と相当因果関係ある損害と認めることはできない。

8  交通費

原告長信本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三四号証の一、三、前掲甲第三七号証及び同尋問の結果によれば、本件事故により重傷を負つた亡正信を見舞うため、原告長信が自宅のある名古屋市から亡正信の居宅のある佐賀徳万までの往復交通費として三万七八八〇円、原告信吾が自宅のある兵庫県三木市から右佐賀徳万までの往復交通費として三万一二三〇円、原告健吾が自宅のある長崎市から右佐賀徳万までの往復交通費として一万〇〇〇四円を要したことが認められる。

なお、原告らは、合計五五万二九七八円の交通費を要した旨主張するが、右認定金額を超える部分については、甲第三四号証の一によりうかがえる親族の範囲や支出の内容、程度に照らしてみても、その必要性、相当性に疑問があり、本件事故と相当因果関係ある損害と認めることはできない。

9  引越費用

原告長信本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三五号証の一ないし五、前掲甲第三七号証及び同尋問の結果によれば、原告ら主張の七万九四〇〇円を本件事故による原告ハマの損害と認めることができる。

10  合計

前記1ないし7の亡正信の損害を合計すると二六〇二万八二六九円となり、この他に前記8及び9の各原告固有の損害が存することとなる。

三  そこで、抗弁について判断する。

1  過失相殺

成立に争いのない甲第八号証、第九号証、第一一号証及び第一四号証によれば、原告車は五〇CCの原動機付自転車であること、亡正信は、本件事故当時ヘルメツトを着用していなかつたこと、亡正信の直接の死因は脳挫傷であることが認められる。

ところで、本件事故日である昭和六一年一月二〇日当時は、原動機付自転車の運転者はヘルメツトの着用努力義務が課せられていたにすぎず、着用が法的に義務づけられていたわけではない(昭和六〇年七月五日法律第八七号による道路交通法改正時の附則一項四号参照)が、亡正信の直接の死因が脳挫傷であり、本件事故状況に照らして、ヘルメツトを着用していれば死亡という結果を回避する可能性も認めうることにかんがみると、亡正信がヘルメツトを着用していなかつたことを過失相殺の事由として斟酌することができ、前記の本件事故態様、被告早苗の過失等を合わせ考えると、公平の見地から損害の一割を減額するのが相当である。

2  弁済

成立に争いのない甲第一一号証及び第一七号証によれば、被告らが原告らに対し、亡正信の通夜の席で香典として一〇万円を交付したことが認められるが、その趣旨及び金額にかんがみると、これを損害賠償の内金とみることは相当でないから、損害額から控除することはできない。

なお、右の事情を斟酌したとしても、前記慰謝料額が相当であるから、被告らの弁済の抗弁は理由がない。

四  賠償額の認定

1  前記二10の損害額についてそれぞれ一割の過失相殺をすると、亡正信の損害が二三四二万五四四二円、原告長信固有の損害が三万四〇九二円、原告ハマ固有の損害が七万一四六〇円、原告信吾固有の損害が二万八一〇七円、原告健吾固有の損害が九〇〇三円となる。

2  原告長信本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三二号証、第三三号証及び同尋問の結果によれば、本件事故に関し、自動車損害賠償責任保険から合計一六六八万九一八〇円(原告ら受領分一六四九万〇九〇〇円及び被告ら負担の治療費一九万八二八〇円)が支払われたことが認められるので、これを前項の亡正信の損害二三四二万五四四二円から控除すると、残額は六七三万六二六二円となる。

3  成立に争いのない甲第一号証によれば、原告ハマ、同長信、同信吾、同健吾は、それぞれ亡正信の妻、長男、二男、三男であり、その法定相続分は、原告ハマが二分の一、その余の各原告が六分の一であることが認められるので、前項の亡正信の損害についての各相続額は、原告ハマが三三六万八一三一円、その余の各原告が一一二万二七一〇円となる。

4  右金額に前記1の各原告の固有の損害を加えると、原告長信が一一五万六八〇二円、同ハマが三四三万九五九一円、同信吾が一一五万〇八一七円、同健吾が一一三万一七一三円となる。

五  結論

以上の次第で、原告らの請求は、被告ら各自に対し、原告長信が一一五万六八〇二円、同ハマが三四三万九五九一円、同信吾が一一五万〇八一七円、同健吾が一一三万一七一三円及び右各金員に対する本件事故後である昭和六一年一〇月五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 芝田俊文)

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